運動と脳トレを組み合わせたプログラムで楽しみながら介護・認知症予防!!

目次

1.軽度認知障害(MCIとは

2.MCIの人の行動変化

3.早期発見の重要性

4.MCI改善のための対策

1.軽度認知障害(MCI)とは

MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)は健常者と認知症の中間にあたる段階です。認知症やアルツハイマー病という言葉は周知ですが、MCIという言葉はまだ一般的には聞きなれないのではないかと思います。高齢者の4人に1人は認知症もしくはMCIであると考えられています。MCIから認知症へ症状が進展する人の割合は年平均で10%と言われており、5年間で約40%の人は認知症へと進行することが推定されています。以下がMCIの定義です。

<アルツハイマー病によるMCIの臨床的定義>

  • 記憶障害の訴えが本人または家族から認められている
  • 客観的に1つ以上の認知機能(記憶や見当識など)の障害が認められる
  • 日常生活動作は正常
  • 認知症ではない

MCIは、物忘れのような記憶障害はあってもまだ症状が軽く、アルツハイマー型認知症になる一歩手前の段階と言えます。アルツハイマー型認知症によるMCIは「認知障害」の症状が認められますが、重要なのは「日常生活において、独立して生活できるかどうか」という点です。人は、日常生活の中でさまざまな動作をおこないます。その動作はADL(Activities of Daily Living)と呼ばれ「基本的ADL(食事や入浴、トイレ、着替えといった最低限必要となる動作)」と「手段的ADL(買い物や家事、金銭管理など何かをするための少々複雑な動作)に分けられます。アルツハイマー型認知症では、この二つのADLの両方が障害され、家事や買い物だけでなく衣服の着脱などの身の回りのことも困難になります。一方で、アルツハイマー病によるMCIの場合、基本的ADLは正常とされますが、記憶障害により家事や買い物といった手段的ADLを遂行することが困難になります。日常生活に大きな支障はないとされていますが、実際には年相応と言えないほどの「記憶障害」や「見当識障害」があるため、家族や周囲の人の見守りや助言が必要になります。

2.MCIの人の行動変化

MCIでは日常の基本動作が行えるため周囲に異変を気づかれないまま過ごしてしまうことも少なくありません。しかし、MCIを放置すると、いずれはアルツハイマー型認知症を発症すると考えられています。長期間放置しないために、身近な人にMCIの疑いがあれば、まずは認知症専門医や医療機関へ相談することをお考え下さい。以下は日常生活における行動変化の例なので気づきのためのご参考にしてください。

MCIになると、周りの物事への興味が薄れ意欲が低下します。そのため、外出時でも服装に気を遣わなくなったり、外出そのものに消極的になったりといった変化が見られます。会話では、時間経過に伴う記憶低下が認められるため、たとえば最近起こったニュースの内容や、昨日食べた夕食など、その物事自体は憶えていても「いつ」「どこ」「なに」などの詳細について思い出すことが困難になります。また、認知機能のひとつである実行機能が衰えると、物事を順序立てて行うことが難しくなるため、同時に二つの動作ができにくくなります。女性であれば、炊事などにおいて鍋を焦がすことが多くなる、水道の水を出しっぱなしにしてしまう、凝った料理が作れなくなるなどのサインが現れます。男性で職場に勤務しているのであれば、新しいことを覚えにくくなったり、記憶力や遂行力が低下したりすることで、仕事上のミスが多くなります。しかし、既にリタイアされ、家事などの役割もなく、普段からあまり外出や家族との会話も少ない生活が日常になっていると、周囲の人もこれらの変化への気づきが難しく、認知症へ進行してからようやく気づくことも少なくありません。普段から役割を持って、家族や身近な人たちとの親しい交流を保つことが大切です。

3.早期発見の重要性

現在の医学では、アルツハイマー型認知症は根治的治療が不可能とされていますが、その前段階であるMCIでは進行を食い止める可能性が期待されています。アルツハイマー病によるMCIの段階でもアルツハイマー型認知症と同様に脳内アミロイドベータの蓄積が認められます。アルツハイマー型認知症を引き起こす約20年前から蓄積が始まっていると考えられていますが、発症するまでの期間には個人差があります。適切な対策や治療を行うことで発症を遅らせられる可能性は否定されていません。アルツハイマー病によるMCIの対策・治療は、早期であればあるほど効果が高いとも言われています。そのため、将来の認知症発症を予防するにはMCIの早期発見が何よりも重要です。MCIは固定した、あるいは進行性に悪化する状態とは限りません。MCIと診断されてもその後の評価で正常と判断されることもあります。その症状と対応によっては回復したり、発症を遅らせることができる可能性が残されています。しかし、MCIを放置したままにすると、MCIから認知症へと進展することもあります。

日常生活の行動変化が認められた段階でなるべく早く認知症専門医を受診するようにしてください。自ら気づき、受診するケースは多くないと思われます。認知症の人は病識が薄く、自分の認知障害やそれにともなって生じる生活困難を、実態よりも軽くみる傾向があるからです。周囲が気づいて受診を勧めたものの、ご本人は自分に認知障害があることを認めず、場合によっては指摘されたことに怒りをおぼえ、頑なに受診拒否をされるようになるかもしれません。強引に受診させることで家族関係を崩してしまうと、その後の介護生活に大きな影響が出てしまいます。そうならないために、家族だけで解決しようとせず『地域包括支援センター』や『もの忘れ外来』のある病院やクリニックなどに相談されることです。健康診断から認知症の診断につなげてもらう、かかりつけ医に相談して医者から受診を勧めてもらう、などの工夫を一緒に考えてくれるはずです。

4.MCI改善のための対策

アルツハイマー型認知症の危険因子には、肥満、耐糖能異常、高脂血症、高血圧などがあります。MCIの治療の第一は、これらの身体疾患の発症リスクを抑制することにあります。MCIは適切な治療・予防をすることで回復したり、発症が遅延したりすることがあります。慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症などの外科的治療の対象となる場合を除き認知症は完治できませんが、早期にMCIに気づき、対策を行うことで症状の進行を阻止することはとても大切です。アルツハイマー病によるMCIの治療・改善方法については、運動や食事、脳トレーニング、薬物療法など、さまざまな研究がなされており、改善が見込まれない可能性もありますが、なかには改善が見られたという研究成果も散見されます。以下で、MCIの改善に有効と考えられている対策を紹介します。

1)運動
ウォーキングやジョギングといった、深い呼吸で空気を体に取り込みながら行う「有酸素運動」が有効と考えられています。有酸素運動で持続的に体内に酸素を取り入れると、酸素によって脳に活発に血液が運ばれ、脳の血流が増加し、脳が若く保たれることが研究でわかっています。また、運動にデュアルタスク(二重課題)という二つことを同時に行う動作をを取り入れることで、より認知症予防の効果を高めることができます。例えば、頭で計算しながらウォーキングする、しりとりしながら足踏みする、などがあります。ふたつのことを同時に行うことで脳の司令塔と言われる前頭葉の血流量が増加し、認知症予防に高い効果が期待できるとされています。

2)食事
あらゆる疾病と同様、食事療法は健康管理の基本になります。個々の栄養素では確定的な結果は得られていませんが、近年、関連を示すエビデンスレベルの高い報告がみられます。食生活で意識したいのは偏った食べ方をせずいろいろな食品をとること。その上で、認知症予防と関連のあり得る栄養素を摂ることが大切です。炭水化物を主とする高カロリー食、低蛋白食や低脂肪食、野菜・果物(ビタミンC、E、βカロチン)フラボノイド、魚(DHA、EPA)、葉酸、ビタミンA、B12、ビタミンD、亜鉛、銅、鉄、カフェイン、コーヒー、茶、赤ワイン(ポリフェノール)をよく食べると良いとされています。

3)認知トレーニング
認知症では記憶力だけでなく集中力や計算力にも障害が起こることがあります。これらを鍛えることができるのが認知トレーニング。トレーニングと言っても、いわゆる脳トレのようにクイズ形式でおこなえたり、楽器の演奏などの遊び感覚でできるものも多く、楽しみながら脳に刺激を与えることができます。学校の勉強のようなストレスのたまるものだと、かえって逆効果ですし長続きもしません。自分の趣味や興味があったものから試してみてください。日記をつけたり、他人と会って話をするだけでも認知トレーニングになります。

認知症予防に関する研究では、アルツハイマー病によるMCI段階の早期発見と早期対策によって発症を遅らせる可能性があることが示唆されています。「MCIは早期発見が重要」と言われているのはこのためで、早い段階で発見し対策することで認知症の症状が最後まで出なくてすむケースもあります。しかし、上記のトレーニングや食事療法などにしても、一個人が継続していくにはハードルが高く、かなりの努力を要するものと思われます。また、正しい方法でおこなわなければ効果の有無を判定することもできません。MCIの人を対象に各種プログラムを実践しているデイケアがありますので、MCIの疑いがあれば、まずはご本人を専門の医療機関へ受診するように促してください。

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